眼(目)の後遺障害
始めに
労災事故に遭って、眼に強い衝撃を受けたり、周辺を骨折したり、頭部外傷によって視神経が損傷するなどによって、眼に後遺障害が残存してしまうケースがあります。
眼の後遺障害の概要
眼の後遺障害は大きく分けて、1.眼球の後遺障害と2.眼瞼(まぶた)の後遺障害、に区分されています。
眼球の後遺障害は、①視力障害、②調節機能障害、③運動障害、④視野障害、の4つに分類ができ、瞼(まぶた)の後遺障害は、①欠損障害、②運動障害に分類することができます。
そして、それぞれの障害の内容と程度により、後遺障害等級が認定されます。
眼球の後遺障害
(1)眼球の後遺障害の分類
①視力障害
視力障害とは、視力の低下、失明を伴う後遺障害です。
視力に関する後遺障害に関しては、原則としてメガネ、コンタクトレンズなどの矯正視力によって認定されます。
ただし、角膜損傷などによって矯正が不能な場合には、裸眼視力で後遺障害等級が認定されます。
両眼の視力障害については、障害等級表の両眼の視力障害の該当する等級によって認定され、1眼ごとの等級による併合繰り上げはされません。
しかし、両眼の該当する等級よりも、いずれか1眼の該当する等級が上位である場合は、その1眼に後遺障害が存するものとみなして、等級認定がなされます。
②調節機能障害
調節機能障害とは、簡単には、ピントを合わせることができなくなった、という場合です。
調節機能障害が生じているかの検査には、アコモドポリレコーダーが調節機能測定装置として使用されます。
検査は複数回実施され、その結果がほぼ一定で、損傷を受けていない側の眼よりも調節力が1/2以下に減じている場合に、著しい調節機能障害として後遺障害等級の認定がなされています。
損傷を受けていない側の眼の調節力に異常が認められる場合には、正常人の年齢別の数値との比較がなされます。
眼の調整力は、人の年齢と密接な関係があると言われており、被害者の年齢が55歳以上である時は、等級認定の対象にはなりません。
③運動障害
眼筋の麻痺などにより、視野が狭くなったり、複視が残ったりします。
このような状況のことを運動障害と呼びます。
①著しい運動機能障害の場合、②正面視で複視(ものが二重に見える状態)の症状を残す場合、③正面視以外(左右上下)で複視の症状を残す場合に、後遺障害等級が認定されます。
①著しい運動機能障害の場合とは、眼球の注視野の広さが1/2以下に低下した場合を言います。
④視野障害
視野とは眼前の1点を見つめて同時に見える外界の広さのことを言います。
視野障害はこの視野が狭くなったことによる障害のことです。視野障害には、
1.半盲症:両眼の視野の右半分、または左半分が欠損するもの
2.視野狭窄:視野の全体が狭くなる、または視野の一部分が不規則的な形で狭くなる
3.視野変状:視野の中に見えない、または見えにくい部分がある(暗点および視野欠損)。
等の症状があります。
一点を見つめたときに、同時に見える外界の広さが正常視野と比較して60%以下になった場合に後遺障害等級が認定されています
(2)眼の後遺障害の認定基準
1)視力障害
等級 認定基準
1級1号 両眼が失明したもの
2級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
2級2号 両眼の視力が002以下になったもの
3級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
4級1号 両眼の視力が0.06以下になったもの
5級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
6級1号 両眼の視力が0.1以下になったもの
8級1号 1眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
9級1号 1眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの
9級2号 両眼の視力が0.6以下になったもの
10級1号 1眼の視力が0.1以下になったもの
13級1号 1眼の視力が0.6以下になったもの
※失明とは、眼球を失ったもの、明暗を区別できないもの、ようやく明暗を区別できる程度のものをいい、光覚弁(暗室で眼前に照明を点滅させ明暗が弁別できる視力)・手動弁(手掌を眼前で上下左右に動かし動きの方向を弁別できる能力)が含まれます。
2)調節機能障害
等級 認定基準
11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
3)運動障害
等級 認定基準
10級2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
11級1号 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
12級1号 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
13級2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
4)視野障害
等級 認定基準
9級3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
13級2号 1眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
(3)眼球の後遺障害の等級認定のポイント
眼の後遺障害の等級認定を得るためには、まず障害の有無をきちんと立証し、労災事故との因果関係を明確に立証することが求められます。障害の立証には以下のような検査が用いられます。
障害の種類 検査方法
視力障害 スリット検査、直像鏡、オートレフ、万国式試視力検査、ERG、VEP検査等
調節障害 アコモドポリレコーダー等
運動障害 ゴールドマン視野計、ヘスコオルジメーター、ヘススクリーンテスト
視野障害 ゴールドマン視野計、フリッカー検査等
(4)注意点
一般的に眼科の診療は、白内障、緑内障といった内科的な疾患や、外傷性のものとしても結膜炎などの治療が中心です。
しかし、眼の後遺障害の原因には、頭部外傷を原因とする視神経の損傷や、周囲を骨折したことが原因となる場合があります。
そのため、後遺障害として適正に把握されていないケースもあります。
その結果、十分な検査がなされず、医師の診断書に記載されないことがあり、後遺障害等級の認定を受けられない場合もあります。
ご相談後に、眼球の後遺障害に関して診断書に記載漏れがあったことが発覚し、訂正がなされ、後遺障害等級の認定がなされる方もありえます。
眼の後遺障害でお悩みになられている方は、お気軽に当事務所までご相談下さい。
瞼(まぶた)の後遺障害について
労災事故によって、眼に切り傷などを負ったり、まぶたが失われてしまったり、動かしにくくなってしまうこともあります。このような障害に関しては、①瞼(まぶた)の欠損、②瞼(まぶた)の運動障害として認められれば、後遺障害等級が認定されます。
(1)瞼の後遺障害の分類
①瞼の欠損に関する障害
瞼を普通に閉じたときに角膜を完全に覆いえない程度となっている場合に、著しい欠損として、後遺障害等級が認定されています。
また、瞼を普通に閉じたときに角膜は覆うとができるけれど球結膜(しろめ)が露出している場合には、一部の欠損として、後遺障害等級が認定されています。
②瞼の運動障害
瞼を開いたときに瞳孔領を完全に覆う場合、または、瞼を閉じたときに角膜を完全に覆うことができない場合には、著しい運動障害として後遺障害等級が認定されています。
また、睫毛(まつげ)の生えている周辺の2分の1以上について睫毛が生えなくなった場合(睫毛はげの場合)にも後遺障害等級が認定されています。
(2)瞼の後遺障害の認定基準
1)欠損に関する障害
等級 認定基準
9級4号 両眼の瞼に著しい欠損を残すもの
11級3号 1眼の瞼に著しい欠損を残すもの
13級3号 両眼の瞼の一部に欠損を残すもの
14級1号 1眼の瞼の一部に欠損を残すもの
2)運動障害に関する障害
等級 認定基準
11級2号 両眼の瞼に著しい運動障害を残すもの
12級2号 1眼の瞼に著しい運動障害を残すもの
13級4号 両眼の瞼の一部に欠損を残しまたは睫毛はげを残すもの
14級1号 1眼の瞼の一部に欠損を残しまたは睫毛はげを残すもの
その他
外傷によって瞳孔が開いたままとなってしまい、瞳孔の対光反射が消失または減弱したものを外傷性散瞳と言います。
そして、外傷性散瞳のうち、瞳孔の対光反射が著しく障害され、著名な羞明を訴え、労働に著しく支障をきたす場合には、1眼の場合に12級相当、両眼の場合に11級相当が認定されます。
また、瞳孔の対光反射はあるが不十分であり、羞明を訴え労働に支障をきたす場合にも、1眼の場合に14級相当、両眼の場合に12級相当が認定されます。
いずれも、判断が困難でありますので、お悩みの方は、ぜひ当事務所にご相談下さい。