労働災害と損害賠償(消滅時効を含む)

 

(1)法的根拠

日本では、労働者は、労災保険給付だけでは不足する部分について、事業主に対し損害賠償請求することが出来ます。

 

安全配慮義務違反による損害賠償請求の際、労働者は、①「ある法律関係に基づき特別の社会的接触関係に入ったこと」②「それによって生ずる安全配慮義務の存在」③「安全配慮義務違反」④「損害の発生及び額」「③と④の因果関係」を主張・立証する必要があります。一方、事業主は「事業主には責任がないこと」を主張・立証しなければなりません。

 

そのため、 安全配慮義務違反による損害賠償は、立証責任の観点で、事業主の方の負担が大きくなります。
安全配慮義務違反ではなく、不法行為を根拠とする損害賠償請求もあります。
その際、労働者は被害者として、特に、事業主に故意・過失があったことを主張・立証することが重要となります。

 

(2)安全配慮義務違反による損害賠償

労働者は、作業における危険を回避するための作業管理や労働環境設備の整備を怠った事業主に対して、安全配慮義務違反として損害賠償を行うことが出来ます。

 

また、近年では、長時間労働・過労死における安全配慮義務違反による損害賠償請求も増加してきています。
労働者・事業者共に、安全配慮義務の内容・安全配慮義務違反の事例の確認をすることを、おすすめします。

 

・不法行為による損害賠償

一般的な不法行為に基づく損害賠償責任は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者が、生じた損害を賠償する責任を負います。

 

不法行為責任が成立するための要件は、以下の4点です。

1)故意または過失が存在すること

2)他人の権利を侵害したこと

3)損害が発生したこと

4)行為と損害との間に因果関係が存在すること

事業主に対し不法行為に基づく損害賠償責任を請求する場合として多いのは、使用者責任(民法715条)を根拠とする場合です。

使用者責任とは、事業主は、従業員が業務の執行において第三者に加えた損害を賠償する責任があることを言います。

 

使用者責任が成立するためには3つの要件があります。

1)使用・被用の関係が存在すること

2)その被用者の行為が民法709条の不法行為の要件を満たしていること

3)その損害が事業の執行につき加えられたものであること

 

(3)不法行為責任と債務不履行責任との違い

①遅延損害金の起算日

不法行為の場合は、不法行為時に遅滞に陥り、労働者側が請求する必要はありません。

一方、債務不履行は、履行の催告をした時に遅滞に陥り、労働者側の請求があってはじめて遅滞に陥ります。

 

このため、遅延損害金の起算日は、不法行為の方が、労働者側に有利です。

 

②消滅時効

 

1 改正前民法の適用がある労働災害について

安全配慮義務違反を根拠とする債務不履行責任を追及する場合、「権利を行使できるとき」から10年の消滅時効(民167条1項)、不法行為責任を追及する場合、「損害及び加害者を知ったとき」から3年の消滅時効と不法行為のときから20年の除斥期間(民724条、国賠4条。判例で除斥期間と解釈されていました)により消滅します。

 

2 2020年4月1日施行の改正民法の適用がある労働災害について

 改正民法の規定により、生命・身体を侵害された場合の債務不履行に基づく損害賠償請求権の時効は、権利の行使をすることができることを知ったときから5年と、権利を行使することができるときから20年の消滅時効にかかることになります(改正民法167条)。また、この改正により、人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効は5年とされました(改正民法724条の2)。

 これにより、生命又は身体を侵害された場合の損害賠償請求については、上記のとおり、債務不履行に基づく場合においても、不法行為に基づく場合においても、権利を行使できることを知ったとき(債務不履行)ないし損害及び加害者を知ったとき(不法行為)から5年、権利を行使できるとき(債務不履行)ないし不法行為のとき(不法行為)から20年と一致することになりました。

 

3 経過措置

不法行為による損害賠償請求権の時効規定について、法改正による混乱を防ぐための経過措置として「附則」が規定されています。

 

このため、改正前民法724条で規定していた「3年の短期消滅時効が完成していた場合や20年の除斥期間が経過していた場合」には、改正民法の適用がありません。また、附則35条2項の反対解釈により、2020年4月1日時点で3年の時効が完成していなかった場合には改正民法が適用され、5年の消滅時効にかかることになることになります。

 

附則 第三十五条 旧法第七百二十四条後段(略)に規定する期間がこの法律の施行の際既に経過していた場合におけるその期間の制限については、なお従前の例による。

2 新法第七百二十四条の二の規定は、不法行為による損害賠償請求権の旧法第七百二十四条前段に規定する時効がこの法律の施行の際既に完成していた場合については、適用しない。

改正前第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

 

4 2020年4月1日以前に雇用契約が締結されていた場合の労災について

民法改正の経過措置により、「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による。」(附則第10条第4項)とされています。そのため、債権発生の原因行為が施行日前に行われていれば、改正前民法が適用され、消滅時効期間は「権利を行使することができる時から10年間」となります。

この点、労働者から使用者(勤務先)に対する安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求の事案については、「債務の発生原因である法律行為」は「雇用契約」であり、施行日(2020年4月1日)前に雇用契約が締結されている場合には、改正前民法が適用されます。(法務省:民法の一部を改正する法律(債権法改正)について、経過措置に関する説明資料参照、http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html.4頁)

 

③近親者固有の慰謝料

労働者が、労働災害で死亡した場合、

 

不法行為に基づく損害賠償請求では、近親者が固有の慰謝料を請求することができます(民法711条)。一方、債務不履行の場合は、近親者固有の慰謝料は、請求できないとされています。

 

出所:冨田武夫、牛嶋勉(2015)「最新実務労働災害ー労働補償と民事損害賠償ー」三協法規出版社

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