労災の申請をしないよう言われている
Q.会社で仕事中に負傷したため、労災の申請をしようと思い、会社にそのことを伝えたところ、「労災の申請をするな」「会社からは申請には協力しない」と言われました。どうすればよいでしょうか?
A.「労災隠し」は犯罪です。
労働基準監督署に対し、会社に労災の証明をしてもらえなかった事情等を記載した文書を添えて、労災保険給付等の請求書を提出できます。
解説
1.はじめに
労災に遭った場合で、会社に落ち度(故意・過失)があるときは、労働者またはその遺族は会社に対して損害賠償を請求できます(民法709条、715条等)。
しかし、会社に落ち度がないときは損害賠償請求できませんし、会社に落ち度があっても、裁判になるとそれを証明する義務は基本的には労働者側に課せられており、費用、時間、労力を要します。しかも、労働者側にも落ち度がある場合には損害賠償の額は低くなってしまいます(過失相殺)。
そこで、労働者ないしその家族を援助するために、労災保険制度により療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付、葬祭料、傷害補償年金、介護補償給付という各種給付が受けられるようになっています(労働者災害補償保険法、労働基準法等)。
2.労災保険給付等の申請手続き
労働者が労働災害により負傷した場合等には、労働者等が休業補償給付等の労災保険給付の請求(労災保険法12条の8第2項)を労働基準監督署長に対して行うことになります。その際、労働者は労災保険給付等の請求書に必要事項を記入して労働基準監督署に提出します。請求書の用紙は労働基準監督署で入手できます。
事業主は、労災保険給付等の請求書において、[1]負傷又は発病の年月日及び時刻、[2]災害の原因及び発生状況等の証明をしなくてはなりません(労災保険法施行規則12条の2第2項等)。
3.事業主が証明を拒否した場合の対応策
事業主(会社)が上述の証明を拒むことがあります。
事業主の証明は、上述した通り、①負傷又は発病の年月日及び時刻、②災害の原因及び発生状況等を証明するものであって、それが労災であることを証明するものではありません。労災であるか否かは、あくまでも労働基準監督署が判断することです。この点を誤解している事業主(会社)が多いようです。
しかし、事業主(会社)が証明をしてくれない以上は、その証明のないまま労災保険給付等の請求書を提出するほかありません。ただ、その場合でも、労働基準監督署に対し、会社に労災の証明をしてもらえなかった事情等を記載した文書を添えて提出すれば受理をしてもらえます。
この文書は、書式が決まっているわけではありませんので、書き方などについては、まずは労働基準監督署に相談してみて下さい。実務上は、「事故証明不提出の理由書」などという表題を付けて、「事業者(会社)に証明を拒まれたため証明のないまま請求書を提出せざるを得ないが、請求書を受理して欲しい」という内容の文章を記載することが多いようです。